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依存症当事者による依存症概説②~治療と家族の関わり方について~



 どうも。元熱血教員で不祥事教員、現社会福祉士でピアサポーターのぬっぺふです。

 前回は夏のビールCMにあてられて依存症についての概説を始めましたが、今回はその後編、依存症の治療とはどのような形で進むのか、そして家族はそれに対しどう関わるべきなのか、といった点を見ていきたいと思います。


※なお、前回の内容も含め、基本的な情報は埼玉県立精神医療センターの合川勇三氏のまとめた資料を参考にしながら自身の体験や理解をもとに噛み砕いて説明をさせて頂いています。明らかな間違い等があった場合はぬっぺふの理解不足によるものです。ご一報いただければ幸いです。


 では本編を始める前に、まず治療についての基本事項のおさらいをしておきましょう。


①依存症の治療は「治癒」が目的ではない

 ※めざすのは依存物によって失った身体面、精神面、社会面の回復!


②そのために3つの歯車をまわしていくことが大切

「自分の人生を見なおし、依存に頼っていた心の空白を埋められるようにする」

 

「依存が辛さを忘れさせてくれる魔法だったということを理解し、魔法を使わずとも生きていける術を探る」


「健康な依存先をふやしていく」


…以上の点を抑えた上で、今回は具体的にはどのような方法でそれらの準備を進めていくのかを見ていこうと思います。

では、いってみましょう!



 

1.治療の進み方の例


 まず基本事項として、「本人を支援する人が多ければ多いほど治療は良い方向へ進む」ものです。前回お話ししたように、依存症になる方は沢山の人やものに少しずつ頼ることができないがために一つのものに頼り切る(依存する)ことになってしまいます

 なので、椅子の足をふやすように、支援してくれる人…つまり依存できる人を増やしていくのが基本です。

 そのうえでどのような治療を行っていくかですが、実はその人のレベルによって適切なアプローチが変わってきます。

 レベルは1から5まであり、段階的に治療方法が変わっていくと思ってください。


 

☆LV1 前熟考期:

【その特徴】

・底付体験(加害や失職、離婚など)をへて支援者と繋がったか、家族に連れてこられたばかりの状態。


・自分の依存症についてまだ深く考えることができていません



・表面上は「やめたいよ」と言っていたとしても実際は「やめたい気持ち」と「やりたい気持ち」のはざまでまだまだ葛藤しています。

※この期におよんで?と思うかもしれませんが、今まで依存しているものだけでバランスをとって生きてきた方です。いきなりそれを手放せと言われても内心「そんなことできるのか?」という状態なのは仕方ない。


・依存との闘いに負けないためには、この葛藤の中で「完全に辞めたい!」と思えるようになるかどうかが大切。


…なので、このLV1の段階では2つの方向から修行を行います。


【修行方法:心理教育&動機づけ面接法】

・心理教育でまず依存症についての知識を手に入れ、自分がどのような状況なのか、この先に何があるのかを具体的にイメージできるようにする


・動機づけ面接法では患者と対決しないことを原則としながら(安易にやめるべきだよと一方の意見を伝えると反発で凝り固まったりします)、対話によって自身の現状、自身の目標などをイメージできるよう支援する。

※動機づけ面接法とは、本人が治療の主体となるよう「動機を作ることを目的とした面接のあり方」のことです。


【LVUP条件:既得知識を増やす】

・この段階ではまだ「絶対やめる!」といかないでもOK。

・知識を増やし、自分の分析レベルがあがるのがまずLVUPへの道


 

☆LV2 熟考期:

【その特徴】

・既得知識がついてきて、自分のことをより深く捉えることが出来るようになってきている時期。


・一方で、まだ「やめたい」という意思はぐらついている段階です。


【修行方法:動機づけ面接法】

・引き続き面接を通じて本人が自分なりの「やめたい理由」を持てるようサポート


【LVUP条件:「やめたい!」という動機の獲得】

・「~だから、やめたい!」という本人の思いが固まれば、晴れて次の段階です。


 

LV3 準備期:

【その特徴】

・依存から遠ざかり始める時期で、耐え難い渇望との闘いとなる。


・そんな中、その渇望がなぜ発生するのか、発生したときにどのように対処するかを考え、練習していく


【修行方法:認知行動療法】

・動機づけ面接法から認知行動療法へシフトしていく。

※認知行動療法とは、ものの受け止め方、捉え方(=認知)を変えていくことでその先にある行動も変えていくというものです。

 大体の依存症の人は「やりたい!」と思う行動の「引き金」が普通の人より随分身近ところに置かれてしまっています。

 たとえば「盗撮」に依存している人であればスカートがはためいたのを見ただけで「撮りたい」に直結してしまう。本来なら結びつくはずのない外部刺激と行動がくっついてしまっているのです。


・自身の認知の歪み(≒偏ったものの受け止め方)を理解し、自身の「引き金」がどこにあるかを探す。


・見つかった「引き金」についてはともかくこの時期は避けて避けて避けまくるため、対処法を「引き金」ごとに個別に考えていく

※ちなみに、この「引き金」は「ハイリスク状況」とも呼ばれています。どちらでも理解しやすい方で覚えて頂いて大丈夫です。


※「引き金」は物以外にも人、その時のシチュエーションや自身の感情等あらゆるものが成り得ます。満員電車に乗ると痴漢したくなる…むしゃくしゃしたことがあると酒を飲みたくなる…等。あとでいくつか例は出しておきます。


「引き金」がひかれてしまったときに備え対策を立てていく。


※実は引き金がひかれてから具体的な行動に至るまでにはいくつかの段階があることが多いです。例えば、

 

①ストレスがたまる

②風俗に行きたくなる

③行かないよと思いつつ悶々とする

④家の中では落ち着かず町へ向かう

⑤気が付けば繁華街へ

⑥お店の客引きにあってふらふらと風俗へ…


というように。表面上の意思では「ダメ」と思いつつも潜在意識が求めているため、「我慢できなかったなあ」という状況へ少しずつ近付いていく行動をとるようになっていることが多いです。

 

 この一連の流れのどこかで気持ちを切り替える行動を挟んでいくようにします。

 

 例えば、腕にはめた輪ゴムをはじくといった物理的なものから、すぐ別のことを考える、別の誰かと話すといった精神的なものもあります。一番効果があるのは、人との対話のようです。

 

【LVUP条件:具体的な行動の変化】

 認知行動療法により具体的な行動の変化が起きて来れば、LVUPです。 


 

LV4 実行期:

【その特徴】

・認知行動療法の内容を実践し、依存から遠ざかっている時期

・面談は継続し、より多くの引き金や対処法をその都度考え、行動していく。


【修行方法:認知行動療法】

・基本的には準備期と同様の試みを継続

・より根本的な問題に繋がるストレスや、自身の成育歴からくる認知の特徴などに分析を深め、広げていく。


【LVUP条件:再発させない】

・ある程度再発させずにいられると、依存に頼らないでいられる状態が自然態に近付いてきます。そうなれば、最終段階です。


 

LV5 維持期:

【その特徴】

再発させない状態を維持。

・このころになると認知行動療法をくり返すというよりも、他者との対話・繋がりというものを残して置くことが再発予防になるため、自助グループなどを通じて自身の振り返りを定期的に行える環境を整える


【修行方法:自助グループ】

・同じような辛さに立ち向かっている仲間と「包み隠さない」関係を構築し、自身の再発(スリップ)を防止するとともに、より自己分析を深めていく


※全ての段階で言えることですが、再発(スリップ)してしまった場合は再度前の段階に戻り、何か足りない点はなかったか、再度積み上げ直していくことになります。


 

2.依存素者の引き金(ハイリスク状況)についての具体例


 1.で見てきたように、依存症者にとって自分の引き金を探り、それが引かれない状況に身をおくこと、また引かれてしまった際にどう流れをそらしていくかということは治療の中核とも言える所です。

 そこで、引き金を考える際のヒントをいくつか提示しておきたいと思います。


①引き金は外的な要因と内的な要因にわけられる

  【外的引き金の例】

・家で一人でいる

・デートの前

・依存物を使う友人といるとき

・セックスの前

・給料日の後

・仕事の後

・お金を持っている時

・体重が増えた時

・満員電車にのる(痴漢の人)

・深夜に一人で歩いている(性犯罪系)

・大きな仕事を終えた後


【内的引き金の例】

・恐れ

・怒り

・退屈

・落ち込み

・幸せ

・孤独感

・恥ずかしさ

・疲れ


※その他、意外とつかえる考え方として「なつひさお」についてもお伝えしておきます。

 べてるの家に暮らしていた女性が生み出した概念で、精神的不調の起こる大元の頭文字をとったものになっています。すなわち…


 な…悩んでいる

 つ…疲れている

 ひ…暇である

 さ…寂しい

 お…お金がない、お腹がすいている


…こんなもん?と思う方もいるかもしれませんが、こうした自身の状況を冷静にキャッチできないタイプの方が依存症の中には多いのです。


②引き金への対処について

 以下に例をあげます。


 【引き金:薬物仲間】⇒ 付き合いをやめ新しい友人を作る

※過程で対人スキル獲得!


 【引き金:退屈な時間】⇒ スケジュールをたてる、余暇活動を作る

※過程で時間管理スキル獲得!


 【引き金:ストレス】⇒ ストレスへの気付きと対処を学ぶ

※過程でストレス・マネジメントの獲得!


 【引き金:注射器】⇒ 捨てる

※環境統制の概念を獲得

 …なお、性依存者であればポルノを全て捨てる、というものも同様の効果を表します。


 こうした個別に対処法を考え、実行していく中で依存に頼らないために必要なスキルが少しずつ身についてくるのです。


③引き金が引かれたときの対応について

 基本は1.で確認した通りです。ともかく、引き金が引かれてから行動に至るまでのドミノを途中でせき止めるか別のコースに誘導する方法を考えていきます


※なお、同じ依存症傾向のものでも「性犯罪加害者」の場合はより深い自身の分析が必要になってきます。なぜなら、「性欲を満たす方法は様々なはずなのに、なぜ犯罪行為(=他害行為)でないといけなかったのか?」という点には成育歴の中で育ててしまった無意識化のコンプレックス(女性への誤った認識や自身の劣等感など)が影響していることが多いためです。

 それでも、引き金などをしっかり意識することで少なくとも再犯を防止することには繋がるのは確かです。



 

3.依存症の家族について


 依存症を治療していく際には健康な家族の関係を整えていくことも重要です。そこで、以下では依存症者の家族に起こりがちな現象を挙げていきます。


①健康な家族・不健康な家庭

 意外に思うかもしれませんが、家族は夫と妻の関係が安定していることが一番重要です。ここが安定していれば子と親の関係も基本的には安定します。こうした夫と妻の関係を基本とした三角形が安定した家庭の形と言えます。

 

 これは逆にいうと夫と妻の関係が崩れている家では「問題が発生しやすい」ということです。なぜなら、家庭というのは1つのシステムであり、足りない構成要素は別の家族が無理をして抱え込むことになることが多いからです。


 夫と妻の関係が崩れている家庭でよく起きるのは「母子密着」と呼ばれる関係性です。母と子どもの結びつきが非常に強くなり、時には家族の役割そのものがずれてしまう。以下の図をご覧ください。

 そしてこの形がさらに進むとこのような形になってしまいます。



 本来は夫が果たすべき役割を、子どもが果たすようになってしまうのです。そして夫は子どもの立ち位置を手に入れより自由を謳歌します。こうした子どもの内から「大人として振る舞わなくてはならなかった子ども」を一般的にアダルトチルドレンと呼ぶのです。


 他にもバランスの悪い家族の形はあります。安定するのは三角形です。

 ところが、父のみが強大な力を奮い、妻がそれに順じ、子は両親に従うのみという直線状の家族は意外と多いものです。頂点が夫ではなく子どもが来るような家庭もありますが、いずれにせよ直線型はバランスが悪い。


 

  ②不健康な家族のその後

 不健康な家族のその後はなかなかに悲惨です。

 大体の場合夫婦間が断絶していく場合、妻と子の関係が強化されていき夫はこの2者の世界から離れていきます


 ところが、この母と子の強化された関係は以下の2つの形に向かいやすいです。


 ア 母が子を愛情で支配し、自立すべき時期になっても手放さない。

 イ 子が母を暴力で支配し、結果的に自立時期になっても母から離れられない。

※形は違えどどちらも母子密着と呼ばれる形です。依存症により家庭の形が健全な状態ではなくなっていくと、その影響は次代、場合によっては次次代に受け継がれていきます。


 

  ③家族がこじれる理由

 家族関係はなぜこじれやすいのでしょう。依存症の方でも、職場においてはしっかりとした人間関係を維持できている方は沢山います。


 これを理解するために必要なのが境界線という目線です。

 自分と他者の間には見えない境界線があり、この境界線をちゃんと意識しておくことが精神面の安定を保つためにはとても重要な条件となってきます。

 ところが、家の中…家族との関係に関しては他人であるにも関わらず境界がなくなりがちです。すると、家の中は一種の無法地帯となってしまう

 

※特に諸外国と違い、日本には「神」という存在が希薄なこともその理由として挙げられます。

 アメリカやヨーロッパでは家族との繋がりと同じくらい強い繋がりとして個人と神の結びつきが存在し、結果一人一人の人間をたとえ家族といえども尊重せねばならないという概念が生まれやすいです。

 一方日本にはそうした存在がいないため、血の繋がっている家族を自分と同じ存在として捉えがちです。父母が子に自身の果たせなかった夢を託して進路を強制してしまうことはこの国ではよく見られる光景です。自分と同じ存在。だからこそ、本来存在すべき境界が消失し、何でもありになってしまう。


 

④依存症の家族の特徴


 では、ここで依存症の家族にありがちな特徴を羅列してみます。皆さんはいくつ当てはまりますか?


□夫婦の機能がうまくいかない

□子どもが親の役割を肩代わりする

□対人関係が苦手である

□感情表現が苦手である

□依存症になっている者以外の家族に問題行動があらわれてくる

□近所づきあいをしなくなる

※結果的に家族というカプセルに閉じこもっていってしまうと大体うまくいかないのです。


 

⑤共依存が発生しやすい


 共依存とは、簡単に言えば「誰かのことを考えずにはいられない」という状態です。人への依存、関係性への依存であり、対人関係の病気と言っていいでしょう。

 例えば夫が依存症者の場合、妻は夫に対しての「共依存」状態になってしまっていることが多いです。「大変だけれど私が更生させるんだ」という思いを持っていることもあれば、「本当に迷惑。いつもしりぬぐいは私。私かわいそう!」という思いを持っていることもあります。

 正反対な態度ではあるのですが、実はどちらも「依存症者に振り回されている私(だけど頑張っている)」というストーリーを自身の拠り所にしてしまっていることには違いないのです。


 かなり厳しめの意見なのですが、家族の健康度が高い人は、依存症者とは離婚することが多いのです。離婚していない時点で家族も依存症の傾向あり、というか健康度が低い可能性はあります。依存症者にとって、自分が依存症でも共にいてくれる家族はありがたい存在でしょう。ですが、もしその関係性が先述したような「共依存」関係になっているとすれば、それは依存症者にとっては回復への障壁となってしまうこともあります。


 

⑥病気を支える行動(イネイブリング)をとりがち

 先述した共依存の配偶者等はこのイネイブリングをとりがちです。結果、依存症者のイネイブラー(支え手)となってしまっていることも。主なイネイブリングについて挙げてみましょう


□顔を見るたびに「また~したの?」と干渉あるいは説教をする

□留守の時に本人の部屋を調べたり、見つかった依存物質を捨ててしまう

□本人の言われるままにお金を与えたり、借金の肩代わりをする

□依存物質の影響で寝込んでいる本人に代わり会社に連絡をしたりする

□本人の行動を監視する

□本人の行動に一喜一憂して振り回される


いかがでしょうか。該当する面はありませんでしたか。


 依存症者本人は依存しているもの・行為のことで頭が一杯です。そんなときに、自分のことを心配してなんでも対応してくれる存在(=支え手)がいれば、彼らは自信の症状を言い訳にして好きなように支え手を操縦するようになっていってしまいます。

 結果、世間に支えてもらわないと生きていけない人間となり、信頼もされず責任も役割も与えてもらうことができません。

 人は人に必要とされたり役割を与えられることで安定するのです。それがいつまでも与えられないのであれば、結局依存の大元となる自身のストレスやコンプレックスが解消しないのですからいつまでも依存症に浸りきってしまいます。



 

4.依存症者の家族ができること


 大切なのは境界線。昨今話題のアドラー風に言うならば、「自分の課題と他人の課題を分離する」ということです。自分が負うべき責任以上のものは、依存症者本人に返していくことが重要なのです。

 そのためには以下のポイントが掲げられています。


 

①基本は「見守る」ことしかできない。


相手をコントロールしようとしないこと。なお、見守ることは無関心とは違うので注意。関心をもちつつも、必要のない手助けはしない


「その問題は誰のものか?」を区別する目線をもつ

・イネイブリングをやめる。


家族自身がイネイブラー化している場合はそれを自覚することが必要。家族教室や家族会等に参加し、本人に責任を返していく関わり方を学ぶ。本人に責任が戻れば「自身の問題」として依存を脱する動機が生まれてきます。ときには痛い目にあうかもしれませんが、それも治療をうけようという動機の元なのです


・基本的な家族の対応12条


 1 本人に関する思い込みを一度捨て白紙にかえる。

 2 本人を子ども扱いしない。肩代わりしない。

 3 本人に注意や集中するのではなく、自分自身に注意を向ける

 4 孤立を避け、家族同士で集まる

 5 本人に対する脅し、すかしはやめる(自分が出来ないことは言わない)

 6 本人に対する監視役・干渉的な振る舞いをやめる

 7 本人の不始末のしりぬぐいはしない

 8 本人の言動に一喜一憂しない

 9 言ったことは実行し、できないことはいわない。

 10 薬物やアルコール依存の場合は、本人と関われるのはしらふの時だけ。

 11 本人の暴力に屈しない

 12 本人を病院任せにしない



 

②本人への声掛けについて

良いことはほめる。失敗したことは無視する

 (飴と鞭ではなく、飴と無視。逆をやってしまうパターンが多いです)


・依存症家族のおぼえておくべき8か条


 1 適切な距離をとる

 2 家族が頑張るのではない。本人が頑張る。

 3 結果としての依存行為の有無以上に、本人が変わったかどうかの方が大切

 4 過干渉をやめること。力強く見守ること

 5 本人の失敗は批判しないようにする

 6 依存物をやめろとは言わないようにする

 7 本人が頑張ったことは積極的に褒める

 8 まずは家族自身が健康な生活を取り戻す


・これまでの家族支援と今の家族支援の形は変わってきていることを学ぶ

※今までは「イネイブリングをやめる」「愛をもって手を離す」ことで、本人の底付き体験を促すことが重要とされた。昨今では、「単に距離をおくのではなく、関わり方を変えることで一緒に回復を目指す」関わりが主張されています


 …こうして内容を見てみると、実はこの目線は「発達障害に苦しむ子どもとその家族」「精神疾患をもっている方とその家族」「不登校の子どもとその家族」など、様々なケースにも応用できる内容となっていると感じます。家族にとって「共依存」となってしまうことはそれだけ危険なことであると認識してよいでしょう。


 

5.依存症の方の抱える難しさ

 

 依存症はまず何度も述べたように「治癒」するものではありません。結果的に問題は回復し健康な生活を取り戻すことはできますが、病気でいうならば根治ができない病気なのです。そして、そうした困難な治療に向き合うことをさらに難しくしている要素が3つあると言われています。


 

①動機づけに乗ってきにくい

 一般的に依存症者の動機づけは低いことが多いです。なぜなら、依存症者にとって依存物(あるいは行為)は自身にとって快楽であり、人生の中心であるためです。「やめられたらな」とは思うのです。でもそのために努力をするというほどの動機を持ち合わせていないケースがあります。

(結果、失職や加害行為に代表される底付き体験とよばれる状態に陥るまで強い動機を持てなかったりしがち)

 

 …せっかく底付き体験になる前に支援者に繋がれたとしても、辞めるために努力をするつもりがない人は大体辞めないのが実情です。


 

②社会スキルの問題

 たとえば依存が早い時期に始まっていれば始まっているほど、人生の辛さをそらしていく「社会スキル」が「依存物(あるいは行為)を使う」しか無かったりします。本来ならば成長の過程で少しずつ獲得されるはずの「社会的スキル(感情の抑制、気分転換、人との距離の取り方など)」を獲得せず、すべて依存によるドーピングで切り抜けてしまってきているためです。


 こういう場合、まずは「社会的スキル」を身に付けていく訓練が必要ですが、もともとのストレス耐性が低いために訓練を継続することができず、結果依存から離れられないということになりがちです。

 

 先述したように、依存は魔法です。辛さを一瞬で消してくれる。気持ちを切り替えてくれる。そんな便利なものを人生の早期から使っていたのですから、当然他の対処法なんぞ覚えてないわけです。結果、魔法の副作用に体が付いていけなくなったときに、人生という敵と戦う手段がない。

 スキルを手に入れるには苦痛やストレスを感じた際に「我慢」し、「話し合い」をし、「努力」し、乗り越える必要があります。その場は大変ですが、将来に苦痛を残さない、そうした対処法をくり返すこと自体が、魔法に頼ってきた人間にとっては大きな苦痛になりうるのです。


 

③人間関係の問題

 依存症になる方は元元機能不全の家庭で育っている人が多いことがわかっています。

 ゆえに、彼らは家庭の代わりとなる親密な人間関係を求めて友人関係を築いていくわけですが、その結果「アルコールや薬物」を通じた友人関係を築くことも多いと言われています。

 悲しいことに、そうしてできた友人は関係性が浅いのです。

※ヤンキーは友情に厚いというのは実は幻想で、実際の検査では彼らは表面上はそうした仲間意識を謳いながらも、実際は友人を信頼していないことがわかっています。


 結果、依存症になったときに今まで築いてきた人間関係も失われていきます。

 行為依存などだと真面目な学生生活を送ってきた方も多いです。が、彼らの場合は真面目であったからこそ、底付き体験などを経て「あんなことする人とは思わなかった」とやはり既存の人間関係を失いやすいです。


 こうして困ったことに依存から抜け出そうと思ったときに「自分を助けてくれる人間関係がほとんどない」という状況に陥りがちなのが依存症者の悩みなのです。

 

 ※例として薬物依存症患者の特徴をまとめておきます。


 ・自己評価が低く、自分に自信をもてない

 ・人を信じられない

 ・本音を言えない

 ・孤独でさみしい

 ・見捨てられ不安が強い

 ・自分を大切にできない


※ぬっぺふ的にはこうした特徴をもっているからこそ他者に上手に依存できず、一人で抱え込む…結果依存に走っていくというストーリーだと思うので、こうした性格は他の依存症者にも当てはまることが多いように感じます。実際、ぬっぺふがグループワークで会った方の多くは表面上は隠しながらも根っこでこうした特徴を持っている方が多かったです。



 ・・・上記した3つの課題から、依存症の治療は暗礁に乗り上げがちなのです。


 

6.さみしさとどう向き合うか


 依存症と向き合うときに最終的に立ちふさがる難病があります。それが、「さみしい病」です。依存症患者は、先述したような人間関係の希薄さに苦しみやすいです。

 

 ところが、依存症の回復には「自分のことを無条件で受け入れてくれる人が世界に一人でもいないといけない」と言われているのです。彼らに必要なのは批判でも監視でもなく、共に歩みはげましてくれる仲間達。今回の冒頭でも掲げたように自分の依存できる相手…「応援団」を作れるかどうかがカギになってくるのです。

 

 先述した「さみしい病」はやっかいです。寂しいからこそ、自分と相手がぴったりと重なることを望んでしまいます。当然、カウンセラーなどの支援者に対しても「自分を全て理解して、受け止めてほしい」と期待してしまう。でも、そうしたぴったり重なるような関わり方は治療的ではありません。その場はうまくいっても長期的には本人の責任感を奪ったりすることに繋がってしまう。

 このぴったり感を求める依存症者は、それが得られないとき怒ったり絶望したり、落胆したりして支援者から離れていってしまうこともあります。これも面接がうまく進まない理由の1つです。

 ですが、応援団ができれば一人の人間に自分の全てを理解してもらえなくても安定できるようになってきます。また、ぴったり寄り添わずとも安心感を得られるようになっていきます。こと依存症者の治療に関していうのであれば重要なのは質より量です。



 

7.最後に


 ここまで依存症の治療や家族の関わり方についてみてきました。最初こそ認知行動療法など難しい単語が出てきはしましたが、最後まで読んでこう思いませんでしたか。

「なんだ、結局人間関係がうまくいくかどうかなんじゃないの?」と。


 仰る通りなのです。依存物や行為から距離をとっていくためにも、治療に前向きになるためにも、安心できる場所を増やすにしても、結局人間関係が重要となってくるのです。


 依存症者は6.で挙げたように「無条件で受け入れてくれる人がいないと回復しない」です。でも、それを「家族」が行おうとすると「共依存」となり、むしろ依存症のイネイブラーと化してしまう。

 結局、たくさんのサポーターをつくり、本人が自分の問題として依存症に向き合う中で適宜サポーターに繋がっていくという形を作ることが必要です。


 「めんどくせえ奴!」と思いましたか。そう、依存症者は「めんどくさい奴」化しやすいのです。治療も手間がかかるわりにあまり良くならなかったり、良くなったと思っても再発したり。そうした不安感は本人が一番感じています。だからこそ、彼らは自分を支えてくれる人を必要とする。不安になったときに「頑張っているよ」と言ってくれる人を本音では求めている。


 そして、彼らを支える側の人間はそのさみしさや不安をうけとめすぎて巻き込まれてしまうと依存をより強める原因となってしまいます。適切な距離で関わること、チームで関わること、必要以上に本人の問題を引き受けてしまわないことなど「経験や学習が必要」となってきます。

 

 面倒なこと、難しいことを単純に理解しようとしたり解決しようとしたりすれば必ず歪をうみます。なので、今回の内容も自分なりに噛み砕きシンプルにしたかったのですが、どうしても様々な要素を盛り込んだものになってしまいました。


 自身が依存症である場合、家族や生徒が依存症である場合、今回この記事を読んでくれている方にも色々な方がいるとは思いますが、『難しいことは難しいことを受け止める』しかないです。簡単に解決する魔法はありません。だからこそ、一つずつ回復に向かう筋道をさぐり進んでいくことしかない。専門家と繋がり。知識をつけ。やめたいという動機を強くもち。未来への希望を持てるような環境を周囲に作っていく。


・・・今回は依存症を軸とした説明とはなりましたが、根本の問題点(さみしさ、支援者のイネーブラー化、動機の必要性等)は、その他多くの精神疾患にも言えることかと思います。長文となりましたが、自身の現状を振り返り今後の行動に寄与するものとなっていれば恐悦至極です。


 最後に。依存症は今後必ず増加していく問題です。とくに単純な物質への依存ではなく行為への依存はこれからのトレンドとなると思うのです。そうした時に、「底付き体験」を得ずに回復に向かえるならそれにこしたことはない。

 今回の記事をきっかけに、依存症について学びを深めていきましょう。


ということで、今回はここまで。

では、またいずれ!!


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