どうも。元熱血教員で不祥事教員、現社会福祉士でピアカウンセラーのぬっぺふです。
夏になりました。ビールのCMがじゃんじゃん流れる時期ですね。
幸い私はまったくアルコールを飲まないので、CMを見てもなんとも思わないのですが、「ああ、きっとアルコール依存症の人からすれば、このCMはぬっぺふが毎日リアルな盗撮推奨CMを見せられているようなものなのだろうな」とふと思い、こりゃ辛いやと思った次第です。
前回、発達障害についての概説をしましたので、今回はこれを機に「依存症」についてまとめてみようかと思います。今依存症かな?と思っている方は「知る」ことが一番の対策になってくるはずです。不祥事を起こしてしまった背景に何等かの依存が隠れているというケースも多いかと思います。
そんなわけでして、教員の皆さまは2つの意味でぜひ依存症についての理解を深めて頂きたいのです。1つは自身の身を守るため。もう1つは生徒の身を守るため。
私も教員時代はやらされましたが、喫煙防止教育やらドラッグ防止やら学校でこれを生徒にやりなさい、という内容は多岐にわたり、結果なんとなくの講演で誤魔化されがちです。
ですが、ああした講演は既にやってしまっているものからすれば「だからなんなの?」という内容に終わりがち。真正面からボールをなげてもはじかれてしまうだけです。
そこで斜めから彼らのガードをはじいて種をまくためにも、教員は依存症について最低限の知識は知っておくといいかと思うのです。
そんなこんなで「依存症について」。いってみましょう。
1.近年の依存症の傾向について
まず、昔から今まで変わらないことを伝えておきます。
究極のドラッグはお酒です。20歳で合法的に購入可能、かつ他の薬物よりも他人に害を及ぼす可能性が高い。致死率も長期的には30%となかなかです。
※世界的にはアルコールは60以上のびょうきの原因とされており、家庭内暴力の最大の原因でもあるとされています。よくある話ですが、外国では日本のようにビールをおいしそうに飲むCMはあり得ないわけです。それはこの危険性を知っているから。日本のCMは、毎回有名タレントが覚せい剤をすって気持ちよくトリップしている様子を垂れ流しているようなものなのです。
ですが、一方で現在日本の若者では習慣的に飲酒する人は若者は減ってきています。
要因は色々挙げられますが、「飲むことやたばこを吸うことが大人らしさだった時代」が終わったこと、「お酒を飲む経済的余裕がない」ことなどは顕著に影響しているようです。
一方で、実は女性の飲酒率は増加傾向。働く人が増えたからというのはあるようです。現状ではまだ微増しつつあるという状況ですが、女性の社会進出が進む中でもしかしたらこの数字は今後さらにましてくるのかもしれません。
(なお中・高生でも実は女子の方がやや飲酒経験率は高いです)
さて、ではその他の薬物はどうでしょうか。
アルコール同様、喫煙についても若い層では減ってきているのが現状です。なお、一時期はやった危険ドラッグについても取り締まりを強化した結果一気にへりました。
※どうも日本人は、「ダメ」と言われると大方は素直に従う傾向はあるらしく、基本は合法なものの中で依存していくようです。
ですが、そうした世相にも関わらず「薬物の利用が増加している人々」がいます。それがストレス耐性が低かったり、DV被害者などで何とか生きていくために薬物に頼る、といった人々。
彼らは時には抗鬱薬などの合法的に処方される薬物などに依存しながらなんとかその日その日を生き抜いていくような状況になってしまっている。つまり以前のようなやんちゃなタイプが薬物等にはまっていくというよりは、「生きにくさを抱えた人」が依存していくというのが昨今の傾向と言えるでしょう。
…では、それ以外の人々の依存症は基本減少したと考えればいいのでしょうか?実際はそんなことはなく、薬物依存ではなく合法的な方法で現実逃避や依存をしていっていることがデータ上では示されています。
最たる例はネット依存です。2013年の調査では中学の男子10.6%、女子14.3%、高校男子13.2%、女子18.9%がネット依存に該当している状況です。既に10年ほど前の調査となっているので現在の数字はもっと大きくなっていると思われます。
※女子の方が多いのはチャットやメールの重要性が男子より高いためです。
彼らの中で「よく眠れていない」人は依存が無い人の2倍(約60%)。さらに、午前中に調子が悪いと答える人も24%と依存が無い人の3倍です。
「ネット依存自体に問題があるのか」という意見もありますが、現状ではあるとしか言えません。
まず、ネット依存の行きつく先として「現実でのストレス耐性や対処スキルが低く、コミュニケーション能力が低い人々の増加」が懸念されています。具体的には、リアルでは人としっかり繋がれなくなってくるということです。
…本来集団で生活することには自分にとって苦手な相手とも共存していくという状況が必ずあるわけですが、ネット上にはそれはありません。
ネット依存自体は合法で事例化しにくいため、彼らは病院には現れませんが、長期的な目線として、社会に悪影響を与える可能性があると言われています。
※…と、言っても現在の中高生からすればネットとの付き合う時間そのものが長くなっていくのはもう仕方がないことなのだと思うので、問題は「生活の主たる場がネットになってしまっていないか」また「ネットがもたらす安易な報酬(ネットゲームでのガチャ、オンラインゲーム等での成績による達成感など)の虜」となり現実での日常生活が破たんしていないかどうかが軸です。
また、オンラインゲームでのガチャはギャンブル依存と全く同じ構造でもあるため、ネット依存を入り口としたギャンブル依存に進んだり、ネット上でのポルノ閲覧の容易さが性依存へと進んだり、ネットは薬物依存へは繋がらないものの、行動嗜癖の入り口となっていくものとはなりうるかもしれません。そうした側面も把握したうえで、現代人はネットと付き合っていく必要があります。
…最後に、「薬物を使用する子どもの特徴」として挙げられる4点を確認しておきましょう。子どもに関わる人達は知っておきたい内容です。
①日常生活が不規則
②親と過ごす時間は短く、相談出来ない
③友達が少なく、学校が楽しくない
④薬物を使っている友人が多い
の4つです。
…ここから見出されるのは、薬物に頼るのは「居場所のない子ども達」。
つまり薬物を使用する子どもは多くの問題をすでに背負っているのであり、単にやめろじゃ変わらないということです。
そして、こうした特徴は他の依存にも共通するものです。ネット依存もギャンブル依存も、あらゆる依存症は「それしか楽しみがない、それでしかストレス解消できない」時に問題化していきます。
学校で依存症を減らそうという試みをするならば、下手な講習よりも上記のような生徒が楽しいと思える学校を作っていくことが最重要です。そこに力をいれず口先だけで「薬物使うなよ」といったところで、生徒には全く響かないでしょう。
2.依存症とはどんな病気か
さて、依存症の現状については1.で触れましたので、ここからは「依存症とはなんぞや」という点に話を進めていこうと思います。まず、依存症について理解するためには以下の6つのポイントを抑える必要があります。
①「コントロールがききません」
このコントロール障害、コントロール消失が依存症の中心症状、病気であることを理解することが必須です。後述するように意思の力でどうこうなるものではないのです。
②脳の病気である
以下のような2つのサイクルを通じて、脳の中に特定の回路が強化される結果依存症は強まります。いわば脳内にバグが出来てしまっているのであり、やはり意思でどうにかなるものではないのです。
ア 薬物使用
⇒ 報酬系活性化
⇒ 快感、多幸感
⇒ 条件付けによって条件刺激に反応
⇒ 依存症の陽性強化
※小難しく書いてありますが、アルコール依存に関して言うならば酒のCMを見ただけで飲みたくなる…という状態になっていくということです。
イ 薬物使用
⇒ 脳のドパミン(達成感を感じた時にでる脳内物質)への反応性低下
⇒ 快感を感じにくくなる(=報酬欠乏症)
⇒ 依存物質や行為によってドパミンを噴出。うつや意欲低下を改善
⇒ 依存症の陰性強化
※こちらは、他の楽しかったことが楽しくなくなり、結果よけい依存が強まっていく、ということです。
依存症から立ち直るためには、この2つのサイクルを可能な限り使わないようにするしかないのです。
③条件反射の病気
最終的には依存しているものを見なくても欲求反応が雪崩のようにおきていくようになります。
仕事で怒られた⇒いらいらする⇒気分が切り替えられない⇒依存行為へ
※ある性依存患者では夜一人で歩いている時にカーテンがひらめいたのを見ただけでレイプがしたくなる・・・という人もいました。本来であればもっと奥にあるはずの欲求を引き起こすスイッチが、どんどん手前に来てしまうのです。
先述したビールのCMなんて、アルコール依存症を本気で回復しようと試みている人々にとってはスイッチ以外の何物でもありません。
④欲求の病気
依存症になった人の欲求は非常に強く、意思ではコントロールできません。
意思が弱いからなるわけではないです。
⑤慢性進行性致死性の病気
・一度依存症になると治りません。うまくつきあうしかない。(慢性)
※脳に一度できた回路は消すことは出来ないのです。ですが、使わないこと&別回路を作っていくことで、使用頻度を落としていくようにすると、限りなく反応を悪くする(=欲求を小さくしていく)ことはできます。
・放っておくとどんどん悪くなる。(進行性)
※水が一度流れたあとを何回もなぞればより深い溝となるように、放っておけばその脳回路は何度もなぞられてしまい、薄めることも難しくなっていきます。
・最後には死に至る。アルコール依存症の平均寿命は52歳。(致死性)
※アルコールの場合は身体にかける負担も大きいのですが、それだけではなく社会的な死、再起の難しさなどから他の気分障害などを併発、自死へ繋がるなどのケースも多いです。後者は行為依存でも起きます。
⑥生活習慣病です。
単に飲まなきゃいい、やらなきゃいいというものではないです。その依存は生活全体に根がはっており、本気で治すためには生活そのものを改めないといけない病気です。
※例えば、アルコール依存で言えば生活習慣は昼夜逆転しがち。食事も不規則。友人は基本が飲み友達、趣味は無論飲酒の他ギャンブルも併発すること多し。いらいらしたら話し合いよりも切れるか飲んで忘れてしまう。といったような状況です。
大事なのは依存物、あるいは依存行為に頼らずにすんでいるかどうかだけではないのです。結果として依存断ちできていてもいやいやいやっているなら変わらない。依存しないでもすむような生活を作りかえていくことがポイントとなります。ここが変わらなければ次の再発も近いです。
3.依存症の症状について
例えば酒や薬物の症状には3つの種類があります。順にみていきましょう。
①身体的問題
薬物依存の場合は7割方なにかしらの身体的問題が発生します。アルコールであればガンの中でも致死率の高い咽頭癌や喉頭癌になりやすくなりますし、肝臓病、膵炎、糖尿病、脳卒中、高血圧などまさに病気のデパート。
なお、依存した物質が抜ける際の離脱症状も大きな弊害です。
たとえば断酒した6時間後~48時間後位までの間、人体は頻脈や発熱、高血圧、振戦に不眠、食欲不振、興奮、不安、落ち着きのなさ、怒りっぽさ、注意力散漫、集中の困難、記憶障害、判断力の低下、幻覚や錯覚、聴覚過敏、果てはアルコール性てんかんといった症状に悩まされます。ちょいと飲んだにしては副作用が多すぎる。
また、これらの早期離脱症状以外にも後期離脱症状と呼ばれる、断酒後2日~7日続く症状もあり、こちらの代表格は「振戦せん妄」と呼ばれる意識障害、見当識障害、興奮、発熱、そして虫や小動物の幻視が起きたりします。
…これらの身体的障害の結果、後述する社会的障害が起きてくることもあります。
②精神的問題
幻聴や被害妄想が起きます。かんぐり屋になりがち。気分もうつや怒りっぽくなるなど不安定でやる気がでない。
そして一番めんどくさい部分としては「人格への影響」です。
自身を良く見せるため「飲んでない」と嘘をつきます。わがまま、無責任で感情が爆発しやすいです。倫理観や道徳観の減退が見られます。見分けるには「何かうそっぽいな」と思ったら大体嘘です。彼らに関しては信じても良くはならないです。なぜならば嘘をついている限り依存は良くならないからです。
そのほか記憶力や注意力、思考力、判断力、作業能率低下といった認知機能障害や、衝動的な自殺の危険性もあります。自殺に関しては統合失調症や鬱病なみに確率が高く、また事前予測が立ちにくいです。
③社会的障害
大きくわけて3つです。
ア 家庭の問題
例:家庭内暴力、夫婦不和など。アダルトチルドレンを育てる温床に。
イ 職場問題
例:仕事中の薬物使用、ミスの増加、失業、経済破綻…
ウ 地域社会的問題
例:暴言暴力、迷惑行為、その他の犯罪行為等による友人の変化、近所付き合いからの疎外
などが起こってくる。こうした状況がまた次のストレス源となりさらなる依存や気分障害の併発を起こしていく。
※ネット依存や性依存といった行動嗜癖の場合は幻覚幻聴を含む精神・身体上の疾患としては問題は起きてきませんが、依存先以外の達成感を感じにくくしてしまうという効果は行為依存にもあるため、結果依存が深まったり、ストレス解消がうまくいかず気分障害等の別障害を引き起こすことはあります。また、手に入る情報が偏ったものになるために認知の歪みを引き起こし、それが別の問題に繋がっていくということも起き得るのです。そうした結果、他者とのトラブルや問題行動が増え、結果クライシスに至るということもあります。
4.依存症の治療とは
まず、おおきく間違っている前提があります。依存症になってしまったら、目的は治癒ではないということです。
依存対象をコントロールして使えるようにはなりません。もう既に脳に回路が出来てしまっているわけで、そこを無くすことはもう出来ないのです。
ですが、依存対象から距離をおくことにより回路を使わないようにする。その中で色々なものが元に戻っていく。
つまり、依存は消えないけれど、困りごとは減らしていくことができます。3.で挙げたような身体面、精神面は最たるものです。そしてそれらが回復していくことにより結果的に社会的な問題も消失していきます。
その状態を目指すためには、3つの歯車がかみあっていく必要があります。
まず第1の歯車は「自分の人生を見つめなおすこと」が必要です。
依存症では、人生の喜びが依存対象そのものであり、そこにいかにひたるかが人生の中心となってしまっています。それを単に取り払ったとしても、心には大きな空白があいてしまいます。
虚しさ。孤独。無力感。今まで依存対象で埋めていた心の空白が、依存対象から離れることでその姿をはっきりとみせてくるようになるのです。
大切なのはその空白を何でうめるか、そうした生き方をどう作っていくかということになってきます。
第2の歯車は、「依存対象は辛さを忘れさせてくれる魔法」だったということを理解することです。
最終的には、この魔法を使わずとも生きていける力を付けていく必要があります。
自分の苦痛やストレスと向き合い、話し合いなどを通じて「魔法にすがってしまう理由」を探り。時には自身に不足していたスキル(ストレス解消であったり社会スキルなど)を身に付けていくことで、心をタフにしていくことが大切です。
…その課程で、いかに「全ての困難を自分一人で解決しようとしていたか」ということに気が付くかもしれません。
依存症になる人は頼るのが苦手です。そのために自分を自分で支え切らなくてはならなくなり、それを補強するために物質や行為への依存が起きてしまいます。
※…実は、依存症にならない人は実は様々な面で人に頼っています。調子が悪くなれば友人に相談するし、仕事が忙しくなれば同僚に振ることができます。お金を使ったサービスの利用についても適切に行えます。
「なぜ自分は人に素直に頼れないのかな?」そうした点に気付き健康な依存先が増えていくこと。これが最後の3つ目のポイントです。
この3つの歯車がしっかり回ると、依存対象に頼る生き方が変わっていくことになります。
さて、では上記のような治療をどのような形で推進していくことになるのでしょう。例えばアルコール依存症では治療に3本柱が必要とされており、それが
ア 外来通院
イ 抗酒剤(飲むとアルコールを摂取したときにとても気持ち悪くなる)
ウ 自助グループ
です。
最近ではイの抗酒剤はあまり根拠はないとも言われており、そういう意味では重要なのはア外来通院&ウ自助グループと言えるかもしれません。
入院よりも通院がよいとされている理由は、「自身の生活の責任を本人が背負うことができるから」と言われています。
外部から強制的に酒断ちをしているのではなく、自分の意志で断とうとしているという認識を持ち続けることができるのは大きな違いです。
最後に、自助グループとは依存症の人達が集まってミーティングをもち、基本「いいっぱなし、ききっぱなし」で話をするというものです。入院施設の場合は日課の中に組み込まれていたりもします。この自助グループがもつ力はすごいです。
まず、今まで誰に話しても得られなかった「共感」が得られます。
そして同じような体験をしてきた方と話す中、孤立感が癒されていきます。対話の中で自身を語ることは自己覚知を深めてくれますし、他者と話合う経験はそのまま自己表現の訓練ともなります。
なにより大きいのは、今後自身がどう生きていきたいかの「モデル」がいるケースが多いことです。それまで前向きな未来が描けなかった中、依存に苦しみながらも日常を生きている人々がいることを知ること。それそのものが大きな勇気づけとなるのです。
先述したように、依存症の人から依存対象を取り払うと、心には大きな空洞があいています。その空洞を埋めるものが、自助グループには溢れているわけです。
こうした自助グループのような「対話の機会を確保していくこと」は行為依存においても有効とされています。
※一方で、自助グループならではの注意点もあります。アルコール依存症などでは比較的自助グループの歴史も長く、しっかりとした自助グループが活動していますが、性依存などの場合はそもそもグループ総数が多くないです。そして、そうした状況下では、困ったことが起きます。例えば、性依存の女性を狙い、性依存の男性が入り込んでくるなど、本来の目的以外の邪魔者が入り込んでくることもあるのです。中には盗撮をやめようと性依存の自助グループに通っているのに、むしろ盗撮の情報交換会になってしまうという危険性もあります。
なので、自助グループは大きな力をもっていますが性依存系の方については危ないと思ったらすぐに撤退するのも大切です。その場合は専門のカウンセリング事業所が実施しているグループワーク(自助グループと違い、司会進行を専門家が務める)の活用をお勧めしておきます。
さて、少し長くなってきたので一度切ります。
次回は依存症の治療法では具体的にどのような手法を用いるのかということ、また依存症の方の家族はどう接するべきなのかをまとめていきます。
では、またいずれ!
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