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教員の不祥事防止の在り方を犯罪心理学から考える


 どうも。元熱血教員で不祥事教員、現社会福祉士でピアサポーターのぬっぺふです。

 この間妻が職場で「不祥事防止研修」を受けたとのことでした。内容についてはやはり「このような不祥事があり、不祥事を起こすとこれだけ大変なことになります」という事例の読み合わせのみ。その他の内容は目を通しておいてくれとのこと。


 研修資料の大元になっているであろう資料などでは不祥事の起こるメカニズムについて少し分析されているものもあるようなのですが、現場レベルの研修はどうしても多忙な現場に合わせてか、それとも管理職の能力の問題なのか肝心な部分ははしょられてしまっているように思います。

 近い内にそうした研修資料自体を基にした問題提起も行っていきたいとは思うのですが、とりあえず今回は手持ちの武器の中から「今の不祥事防止の在り方の問題点」をついていければと思います。

 

 いつもは依存症や発達障害の二次障害、加害のメカニズムなどから「このままでは不祥事教員は減らない」という内容を論じることが多いのですが、今回は少し違った方向から。

 犯罪心理学における再犯防止にむけた諸研究の結果をもとに「教員の不祥事防止の在り方」を考えていけたらと思います。

 では、いってみましょう!




 

1.犯罪心理学≠猟奇殺人者のプロファイリング


 まず初めに、犯罪心理学と聞くとどうしても「猟奇殺人者の精神構造」的なプロファイリングを思い浮かべてしまう人が多いかとおもうのですが、あれは元々発見が難しいタイプのシリアルキラーを見つけ出す一つの方法として発展した分野であり、どちらかといえば亜種です。

 本来の犯罪心理学は、「どうして少年非行が起きるのか」、「性犯罪者はどのような心理で行動するのか」、「どのような街だと犯罪が起きやすいのか」といった多岐に渡るテーマを持っており、それらの目的は


「犯罪がなぜおきるのかを心理学的方向からよみとくことで、犯罪や非行の予防・再発防止につなげていく」


という未来志向の面があるわけです。

 

 …日本ではワイドショーなどで犯人がなぜ犯罪を行ったかをコメンテーターが分析し、その不条理さ、非人道さを述べることで視聴者の感情を昂らせるような場面が多いですが、それは犯罪の抑止には全く繋がりません


 犯罪心理学に携わる学者も日本のコメンテーターと同じように犯罪者や非行少年を分析します。ですが、それは彼ら自身を紐解く中でで「より犯罪の起こらない社会のあり方を探る」ためであり、「彼らの再犯防止を実現する」ためでもあるのです。決して、犯罪者の異常性や非人道性をあぶりだし、攻撃するためではないのです。

 

 この、犯罪心理学が本質的に持つ「犯罪予防と再犯防止」のノウハウ。ここからいくつか参考になる情報を探ってみようというのが今回の趣旨です。


 

2.性犯罪者への処遇から見えてくるもの(メーガン法)


 私は、教員が起こした不祥事についての懲戒処分を厳罰とは捉えていません。一般の意見としてはむしろ甘い処分が目立つというものもありますが、民間企業で痴漢再犯者が普通に就労を継続している様子なども見ていると、必ずしも罰が軽すぎるとも思っていません。

 ですが、現状この国では教員の不祥事に限らず犯罪に対して厳罰化を求める意見が強くなってきているように思います。

 

 例えば、性犯罪者についてインターネットで調べれば「アメリカでやっているように住所氏名を公表するべきだ」「GPSで監視をするべきだ」といった意見を持っている方が非常に多いのがわかります。

 ですが、そうした厳罰化のみで犯罪抑止は可能なのでしょうか。


 確かに、アメリカでは最も危険な性犯罪者(3段階に分けられたその最上位)についてはその住所、氏名、職業などを公開するという法律があります。7歳のメーガンちゃんが強姦され殺害されたことをきっかけに成立したメーガン法がそれです。


 しかし、メーガン法を巡る研究では情報公開によって前歴者は地域社会から排除され、結婚や就職の障害にもなることがわかっています。これについて一般論としては「性犯罪者に人権はねえ」というのがあるわけですが、ちょっと冷静に考えて頂きたい。

まず、犯罪心理学において再犯を防止するために非常に重要なファクターとなるのは、「就労」と「結婚」なのです。その2つに繋がることができない状況を作れば、彼らはむしろ再犯に走ってしまう可能性もあることを考えなくてはならないのです。とくに孤立や絶望は京都アニメーション放火事件のような拡大自殺に近い犯行の温床ともなりかねません


実際にメーガン法で住所を公開されている性犯罪者たちに聞き取った内容では、再犯防止に効果ありと感じる性犯罪者も3割います。ですが、その一方で7割の性犯罪者はメーガン法により将来に希望が持てないと語っていることがわかってます。

 

 アメリカではそうした事情から、性犯罪者たちの集まるコロニーのような集落が存在します。それはそうした場所がなければ彼らが追い詰められずに生きていくことが出来ないからです。事実、住所公開されている性犯罪者の多くが、襲撃の可能性におびえて生活していることがわかっています。


 さて、では日本ではそうしたコロニーは作ることができるでしょうか。アメリカにおいてそれが可能な理由の1つはキリスト教という彼ら全体をつなぐ紐の存在があります。ではこの現代日本においてそうしたものはあるのか。社会から孤立した彼らをそれでもなお人の繋がりの中におき、自暴自棄にさせない、再犯させない、さらに凶悪な拡大自殺に進化させない・・・そんな形が作れるのでしょうか。答えはいわずもがなです。


 

3.非行少年への処遇から見えてくるもの



 アメリカでは非行少年の矯正のため様々なプログラムを実験的におこなっています。その中にブートキャンプというものがありました。軍隊式のトレーニングを受けさせることでその勤勉性と規律維持を身につけられるのではという狙いで実施されたものだったのですが、結果は全く再犯防止の効果はなし。


 また、一時期テレビでも取り上げられていたので知っている方もいるかもしれませんが、恐怖プログラムというものもありました。これは犯罪に手を染めたばかりの子どもたちを刑務所に連れていき、そこで受刑者と対面させることで、彼等に刑務所の恐ろしさや悲惨さを教えるというものです。たしかに参加した子ども達は恐怖を感じ、ショックをうけていました。しかし、プログラム後6か月以降の結果をみるとこちらも効果は全くなかったのです。


 こうした結果を裏付けるような研究結果が、実は日本において18年前に出ています。近藤氏は、少年非行を考える際、「自己中心性」と「刺激興奮性」の2つが非行を促進し、逆に非行を抑制するものとして「罰に対する感受性や回避性」、「罰や制裁を予期することで行動を抑制する傾向」を掲げました。この前提のもと、氏は、この2つのベクトルが合わさった結果、非行が発生するのではということを検証したのです。


 ・・・結果はおかしなことになりました。

 非行を促進する傾向は、確かに非行と直結しました。

 でも、非行を抑制するはずの傾向は非行と直結しなかったのです。


 ここから見いだせた真実は、「非行を促進する傾向が変わらないのに罰や制裁への不安を喚起させても、非行は全く減らない」ということを示しています。先の2つのプログラムがなぜ失敗したのか。それは非行少年の内面にある非行を促進させる何か(今回の研究では内面でしたがおそらく環境面にも因子はあるのでしょう)を放置したままで非行を抑制するためのプログラムを叩きこんだからと言えるでしょう。

 同じことが、不祥事防止についても言えるのではないでしょうか。

 不祥事を促進する傾向(個人的なものもあれば社会的なものもあるでしょう)を放置したままで、ただ罰の大きさを伝えるだけの研修は、全く効果がないのです。

 この研究は2004年のものなので、学校現場は少なくとも18年は意味のない研修を実施していることになります。

 

4.不祥事防止のために必要なこと(犯罪心理学の観点から)


 さて。では結局不祥事を防止するために犯罪心理学では何をすべきとなるのか。大きくわけて2つの方向性がみえてきます。


 ①不祥事を促進させる要因を減少させる


 まずは、不祥事を促進させる要因を探り、その要因を減少させるような環境を作ることです。それが本人の性格にあればかえるのは難しいでしょうが、先の近藤氏の研究にあった非行促進の2つの要素「自己中心性」と「刺激興奮性」であれば簡単に減らす方法があります。

 これらを増加させる要因の1つはストレスです。ならばストレス源を減らすか対処法を学ぶことは有効と言えるでしょう。

 例えば、現状教員にとって最も大きなストレス源は多忙でしょう。ならばまずそこの改善を行うことが一番の不祥事防止に繋がることが言えます。


 ②犯罪に至る流れを止める防波堤を持てるようにする


 また、もう一つの視点を上げておきましょう。

 犯罪心理学では「子供に対する性犯罪」は単に特殊な性指向によって生じるのではなく、「自尊心やソーシャルスキル、自己コントロールなど」の様々な要因によってもたらされるものであるということが近年の調査でわかってきています。


そのため、再発防止のためには認知行動療法やカウンセリングなど様々な方法で、犯罪者の人格全体、行動全体に働きかけていくという方法がとられるのです。

 そうした取り組みの中でも特に注目を集めた方法としてリラプスプリベンションモデルというものがあります。 これは、子どもに対する性的嗜好そのものを治療するのではなく、再発を予測し、自身の意思で再発に至らないようにする対処法をトレーニングするというものです。


  たとえば、子どもに対する性犯罪者は犯行の前に「不安感やうつ感覚」生じます。続いて「犯行に対する想像、衝動」が生じ、「ポルノを見ながらのマスターベーション」が起きるも、最終的には「それを実現するために外出」していく、という一連の流れがある事がわかっています。

 この破壊に向かうドミノを作動させないのが一番ですが、それはなかなか難しい。そこでリラプスプリベンションモデルでは、ドミノが発動したことに気付き、倒れきる前にどこかにストッパーを挟むような方策をとることで犯罪を防ぐことを考えるのです。


 こうしたドミノが発動してしまった状況をリラプスプリベンションモデルではハイリスク事態と呼びますが、これに近い考え方や対処法は実は精神障害者が健康に過ごすための方法として掲げられるWRAP(元気回復行動プラン)でもとられています。自身のクライシスを予め書き出しておき、対策を考えるとともに周囲の支援者と共有しておくのです。

 精神障害の不調を消すためには実は対話が大きな癒やし効果を持っています。

 そのため、WRAPにおいてはクライシスに陥った際、話すことができる人を書き込めるようになっています。

 

 これは不祥事含むその他の犯罪のドミノにおいても同様なのではないでしょうか。他者との対話による癒し、気分転換。それがドミノを断ち切ってくれる可能性は多いにあります。事実、性犯罪者の参加するグループワークは対話を行うことで再犯防止の効果を確実に挙げているのです。


 ただし、対話が大切と言っても効果のない対話もあります。

 リプセイとウィルソンが行った分析では、グループカウンセリングや施設内処遇における個人カウンセリング(学校でいうなら校長面談などです)、達成目標や目的がはっきりしない一般的な介入(単に話し合えといったもの)はあまり効果を持たないと断じています。

 一方で、対人スキルトレーニングや認知行動療法などの目標がはっきりした構造化されたプログラムやコミュニティプログラムなどは比較的高い効果が一貫して得られるということを述べています。


 この目線に立つと、真に不祥事防止をするのであれば、本格的な対人スキルトレーニングや認知行動療法を「仕事をしながら気軽に」受けに行けるような環境を整えたり、本人の自尊心を回復できるよう働きかけるほうが理にかなっているといえます。


 

5.最後に


 何が正解なのか。それは単純に指し示すことは出来ないでしょうし、実際にやってみても試行錯誤をしなくては成果がでないこともあるでしょう。


 ただ、今回の犯罪心理学の観点から捉えてみても、現状の不祥事防止の在り方と逆行する方向に本当の不祥事防止があるのではないか?ということは言えるのではないでしょうか。 


 研修まみれにして厳罰を説けば、少なくとも教員の自尊心は下がる一方です。自分を大切にされている感覚がもてない人は、他害にも及びやすいことも考えれば、大幅なスクラップ&スクラップが必要な時期にきているように思えるのですが・・・いかがでしょう。


 さて、今回は犯罪心理学という切り口から不祥事防止の在り方を考えてみました。参考になれば恐悦至極です。

 では、またいずれ!!



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