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生徒対応についてストレングスモデルから考える



 現在、ソーシャルワーカーの間では障害等の困りごとを持つクライアントに寄り添う際の関わり方として「ストレングスモデル」が軸となりつつあります。これは、本人のもっている強みに注目しながら関わっていくことが特徴です。

 それまで主力であった考え方として「医学モデル」というものがありました。こちらは問題の発生理由を本人の個人因子(いわゆる疾患、トラウマ等)に落とし込み、本人のマイナス因子を消去していくことで問題解決を図るという考え方でした。

 ですが、この見方でクライアントに接すると、クライアントは自信を喪失していってしまい、支援者のいいなりとなってしまうケースが多々発生したのです。そんな中、1990年頃に発生してきたのが先述したストレングスモデル。本人のありのままをまず受け止めて、本人の持っている力(意思決定力、長所、希望)を引き出しながら問題解決に向かうことが提唱されました。


 過去にまとめていた資料を眺めていたところ、こちらの考え方が、困った生徒(=困っている生徒)と関わる際にも参考になるかもしれないなと感じたので、参考までにまとめておこうと思います。


ともかくストレングスモデルでの目的は1にも2にも3にもクライエント。問題の事例について話すより具体的な代替策を生み出すために一緒に働く目線が重要です。

 

ストレングスモデルでは問題を無視はしません。が、

「劇中の主役スターではなく、小さな役割のわき役として扱う」のが特徴です。

問題を単発のものとして捉えるのではなく、長い文脈の中の一つの出来事として認識するようにすること、問題についてはなしあうとき深刻になりすぎるのではなく、より気軽に話せる方法をとる(個室で対面などよりはオープンなスペース、ランチなどをしながら等)、問題に注意をはらいすぎないことが大切となります。


さて、以下ではストレングスモデルの第一人者ゴスチャが記した著作の中から、クライアントの力を損なう行動と増幅させる行動をチェックリストにしたものを載せてみました。

その上で、ぬっぺふなりに学校の中で起きうる状況として書きなおしてみたものが緑字です。福祉現場で中心に使われている関わり方ですので、対生徒で100%利用できるものではないとは思いますが、困っている人間の感じ方はそう大きく変わるものではないので役に立つものもあるかともいます。普段の自身の関わり方と照らし合わせながら一読いただければと思います。


また、自身が今困った状況にあるという方については自身のやる気を高めてくれるような関わり方をしてくれる方と関わり、やる気を失わせるような関わり方をしてくる方からは遠ざかる等の自己防衛に使うこともできます。ご確認ください。

 

Ⅰやる気を失わせる行動

 

1.実践や資源の制限

□裁判所命令がある、またはその期間が延長される。

(学校では、生徒指導案件になったあとであと一回で退学となる状況など)

□居住施設に「留めおく」(例:障害者の場合はGH)

(学校では家庭内謹慎あるいは本人の意思にそぐわない別室指導の継続)

□大学進学希望するクライエントに職業技術訓練を強要する

(学校では進学希望をきかず、専門学校を進める等)

□まだ働く準備ができていないという

(お前が就職なんて無理だと伝える)

□サービスを受けている他の人との交流はできないという

(問題行動が激しいために別室登校等の対応をとっている生徒に対し、

 勝手に友人と交流することを妨げる)

□服薬管理ができるのに、監視する

□連行されるとき手錠をかける

(生徒指導室等につれていくときに必要以上の身体拘束をする)


2.精神障害者に対するスタッフ側の否定的態度、認識

□薬のまないと良くならないよ!

□「あなたには常に薬が必要だ」という(または考える)

□病的特性があるとみなして一般化する

(あいつはADHDだから、といった言論)

□病名やレッテルに焦点をあてる

(不良生徒であるといったレッテルばりなど)

□その人の価値を認めない

□自分の生活の基準を彼らに強要しようとする

(やりがち!)


3.侵襲的介入

□薬物を注射する

□不定期の尿検査


4.スタッフの蔑視や見くびるようなかかわり

□どうせ理解できないだろうと決めつけた会話

□子ども扱い(お酒のんじゃだめよとか)

□本当によくやったね、でも・・・

□無視

□長時間またせるなどクライエントの時間を尊重しない

□親のような態度、叱るような言葉「言ったよね…」

□(アウトリーチを除いて)連絡なく自宅を訪れる

□無礼な態度

□やっていないことをやったというなど無責任な行動

(このあたりは特に対生徒だと出がちな部分です。)


5.貧困

□クライエントが「どうやってこれを払えばいいの?」といつも心配している

 (修学旅行費の積み立て、安易な奨学金の勧めなどはこれに繋がる可能性あり)

□慈善を受け取る(食料配給所や中古品店にいく)

 (PTAが中古の学生服を格安販売することなどもありますが、人によっては

  そうした支援の活用はプライドを傷つけることにもなりかねません)


6.サービス

□目標達成のための支援ではなく今の状態を維持することに焦点を当てたサービス

ともかく赤点をとらないためだけの補習

□何かを達成できると誇張する(「あなたにはできる!」)が、実際には数か月かかる。

□「それは私の仕事ではない」と一蹴

 (悩みを打ち明けてきた生徒に対し、進路関係だからまず進路の先生へ…と横流ししてしまうなど)

□クライエントと接する機会が少ない

□信頼関係ができた担当が変更になる

□過度なサービス提供

 (境界線を越えてしまうような関わり方。本人が出来ることまで肩代わり。

□薬を変更し、再発や悪影響を及ぼす

□援助関係の中に伝統的な境界がたくさんある

 (進路はあのひと、生徒指導はあのひと…チーム感なし)

□資源に条件をつける「グループに参加するなら居住支援しますよ」

 (補習に参加するなら進路の面倒みるよ)

 

7.目標

□何を「すべき」か、目標がどう「あるべき」かを強要する

□クライエントの夢や目標を追求せず、書留もせず、無視する

□クライエントの決定を家族がコントロールする

□クライエントの立てた目標を専門的な立場からの目標に読み替えてしまう

「私は友人が欲しい」→「対人関係技能の改善」

(東京大学合格→勉強習慣の確立および偏差値をまず10上げる等)


8.差別

□家主がその人や他の利用者とよくない経験があったため、適切な住居が発見できない。

□雇用主や同僚たちがクライエントに対して不当な待遇をする

□ほかの人とは違うと感じるような薬物の副作用(性的不全、肥満)

 (学生が処方される薬の中では慢性的な眠気、肥満に繋がるものは多い)

□クライエントが精神疾患があることを恥ずかしく思う

 (本人が発達障害や気分障害があることに負い目を感じている状況)

□性的に危ない人とみなされる

 (発達障害や軽度知的障害者では、性的関心の高まりに対し対処方があまりに幼く、単純な行為から相手に付きまとってしまったりしてしまうことあり)


 9.

  □家族の支えが足りない(あってくれない、子供扱いする)


 

Ⅱ希望を引き出す行動


1.おもいやりのある助言を通して希望をはぐくむ

□傾聴(目を合わせ、うなづく、)

□話したいときにそばにいる

□気遣いとやさしさをしめす。

□クライエントと楽しい事を一緒にする

□「私はあなたを信頼します」「私はあなたの味方です」と伝える

□肯定し、力づける励ましをする

□クライエントが成功しようがしまいがそのまま受け入れる。失敗してもその努力を称賛する。

□支援のすべての過程においてクライエントの意見や選択を尋ね、尊重する。

□クライエントが話すことや行動に対して心を込めた熱意を表す

□クライエントと共通するものを共有する

□必要に応じて個人的経験を分かち合う

□クライエントにスタッフも同じ「人間」であることを知ってもらう

「そうよ、私だってつらいときがある」「私がまちがえたわ」


2.クライエントを尊重して対応する

□クライエントの選択や要求を(わずかばかり)値切ったりするより、彼らを受容し目標達成のために支援することでクライエントの決定や要求を支える。

□予定に従う。

□電話はいつも受けられるようにして、受けられなかった場合はなるべく早くかけなおす

※この辺は対生徒では難しい面ですね…

□すべての約束を守る

□時間はきちんと守る

□自分自身がされたいようにクライエントを待遇する


3.肯定的側面に焦点をあてる

□うまくいかなくとも、過去の出来事にくよくよするのではなく前向きに将来について語る

□クライエントがよくできたことや彼らのストレングス(強み)に焦点をあてる

□うまくやっていることについてほめる

□やっていることがうまくいかない場合、その人が過去に成功した経験を思い出させる

□ほかの人も似た経験をすることを知らせることでクライエントの経験をノーマライズする

□「できる」という姿勢を伝える

□達成、成功に目をむける

□うまくいかなくても、もう一度挑戦することができると知らせる。


4.成果と成功を祝う

□クライエントがうまくできることについて特別に賞賛する

□おおきなことでも小さなことでも成果や成功について祝う


5.クライエントのために一緒にいる、そばを離れない

□クライエントを支え不安を減らすために、医師の診察予約や法廷聴聞会に同行する

□クライエントが資源を利用することができない場合、必要とあれば関係者の啓発を通じて、クライエントの助けとなる資源を持っている人を説得することで、クライエントの権利を擁護する

(児童相談所と本人を結びつける等。子ども食堂の地図を渡し、情報共有しておくなどもこれに入る)


□クライエントが入院したときにお見舞いにいく

□薬物治療に関して困ったことがあれば、精神科医との交渉を援助する

(彼らが必要とすること、望むことを支援する)

□孤立した人にも精神保健制度を警戒している人にも一緒に取り組むのが難しい人にもかかわり続ける。あきらめない。


6.クライエントが大切な目標に向かって取り組むように援助する

□クライエントの目標設定を支援する

□クライエントが目標を実現可能な段階に分割することで、資源の獲得を支援することで小さな一歩を認めることで、達成できるように援助する。

 (スモールステップを設定する)

□スタッフの援助目標は実際にクライエントの目標であることを明確にする

□目標は達成可能であることを利用者に理解してもらう。

□クライエントの目標に向けての熱意と興奮をしめす

□クライエントが自活や自立に向かう目標に取り組むように働きかける

(自らが手当やサービスの受取人になること、仕事、教育)


7.選択の余地を勧める

□すべての人には自分で人生を決める権利があり、支援の進行をコントロールする権利があることを認め、支持する。

□クライエントが望むたくさんの選択肢を作り出す

□クライエントが決定できるように情報や資源を提供する

□サービスを選択でき、提供者を変えることができる

 (なにも全てを担任がやらねばならない決まりはないです。

□すべての支援についての決定や検討に、サービスを利用しているクライエントが参加する


8.教育を勧める

□クライエントのリカバリー、症状や薬物治療に退所する方法について教育を提供する

□関係と理解を築くために家族を教育する


9.精神保健制度を超えて未来に目を向ける

□クライエントは永続的にサービス(受取人、ケースマネジメント)が必要なわけではないことを話し合う。

□精神保健センターの外の普通の地域の場面で人々とともに時間を過ごす

 (学校以外の場で人々とともに時間を過ごす。ボランティア体験等もいいですし、地域のグループに所属してみるのもいいでしょう)

□地域資源の活用や、精神保健に関係していない活動にクライエントの参加を勧め、社会統合を促進する


 

Ⅲ ストレングスモデルから見えてくること


 ストレングスモデルの考え方は、徹底的に本人を中心とすること(本人に人生の責任を返していくこと)が重要になっています。

 鬱病を抜けるために重要なきっかけとなったことについて、多くの方が挙げるのは「他者から必要とされた経験」だそうです。

 また、リカバリーについての専門家、パトリシア・ディーガン氏は自身の学生生活での出来事を以下のように記しています。

(すみません、手元に参考文献が無かったため表現はぬっぺふの記憶によります。内容は間違えていないはず…)

 『私は、症状を必死でこらえながら机にしがみつき授業を聞き切った。意識はもうろうとしていたが、やり切ったという感情があった。そこへ、授業をしていた教授がやってきて言った。「体調が悪いなら無理せず休んでなさい」。私は「頑張ったね」と声をかけてもらえることを期待していた』

 

 学校の中で、問題のある子どもとされる子達はどうでしょうか。ぬっぺふもそうした子ども達とチームを組み様々な活動をしてきましたが、やはり根本は上記したような内容と似通っていると思うのです。

 彼らは、自分の人生を自分で選択できていない。それゆえに責任も持てない。

 彼らは、他者から必要とされた経験が乏しい。それゆえ、自分が必要な人間であるという確信がもてない。

 彼らは、実は頑張って机にはりついている。けれど、教員はじめ大人は問題の側面ばかりをとりあげ、本人の水面下での努力は認めてくれない。それゆえに大人への不信感がたまっていく・・・


 彼らと人としてかかわり、問題行動は一度さておき、長所の面で接していく。ともに何かを作り上げていく。信頼関係を、チームを作っていく。

 これを実施するためには、教員には大きな負担がかかります。実際、私がこうした試みをしていた際は結局すべて放課後にまわってしまい、夜11時まで生徒と文化祭準備をしたりと明らかな境界線オーバーな関わりとなってしまっていました。

 それでも、効率化がさけばれる中、こうしたストレングスモデル的な関わりは無くなってはいけない存在だと思うのです。

 

 学校全体の業務がよりスクラップ&スクラップされ。社会福祉士や公認心理士といった専門知をもった教員が現場に複数名配置され。全員が英語検定を受けるといった学年費の無駄遣いをなくし、学年でもっと自由なプロジェクトを組めるようにし。そこへ問題を抱えた生徒を巻き込み一緒にプロジェクトを成功させていく…

 

 こうした一見無駄と思える余裕が学校現場には担保されてしかるべきだと思いつつ、昨今の教育改革を部外者として見守っているのですが…

 皆さんはどう思いますか。

 ということで、本日はここまで。


 

 



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