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ぬっぺふ

発達障害について①



 どうも。元熱血教員で不祥事教員、現社会福祉士でピアサポーターのぬっぺふです。

今まで「発達障害について専門的にまとめたページは他にもたくさんあるしー」と思って自分ではまとめてはいなかったのですが、ブログ内で散々「自身の傾向について知ることです」とか言っているわりに「あとは自分で調べてね」はちょいと不誠実かと思い…

 自身の知識の振り返りも兼ねて少し発達障害について概論をしていきたいと思います。


 教員にとって、発達障害の理解(あと今後は愛着障害も)は今後必須事項となってくるはずです。それは自身について知ることで自身の不祥事教員化を防げるということもありますし、生徒に対してその目線を向けることで困った生徒(=困っている生徒)へのアプローチが変わってくる(結果として関わり方もよりソフトなものになりこれも不祥事防止に貢献する)ということがあるかと思います。


 なので、少し長い内容となってしまうかもしれませんが、お付き合い頂ければ幸いです。

では、行ってみましょう。



※なお、今回の内容は過去に受講させて頂いた嵐山学園の早川洋氏の研修内容を元に、ぬっぺふなりの継ぎ足しを施したものとなります。予めご了承頂ければと思います。


 

1.発達障害とは


 別記事で、このHPでは「知的な能力発達あるいは他者との関係性の発達(もしくはその両面)において何等かの凸凹があり、それに起因する生き辛さを抱えている方を指す」と言いましたが今回はもう少し詳細に説明をしていこうと思います。


①発達障害の定義


 まず、発達障害者の定義は今なお変化を辿っている所です。始まりは1963年。ケネディ大統領の福祉政策の中で(development disability)という用語が使われたことが嚆矢です。

 その定義がより具体化したのが1975年。ここでは


『発達障害とは精神遅滞、脳性麻痺、てんかん、自閉症、さらに全般的知的機能の障害の結果、精神遅滞と同様の機能常態にあり、同様のサービスを必要としているもの、およびこれらの結果から生じた失語症が含まれる』

『18歳以前に生じたもの。現在も見られ、将来も続くと思われるもの』

『一般社会で生活するとき、その人の能力が本質的に不利となるもの』


 とされており、現在日本で考えられている発達障害よりも広範囲を含めた概念であったことがわかります。


 その後、時代は進み現在ではDSM-5(現在世界で最も活用されている精神疾患の判定基準。客観的に判断できるチェックシートをうめると診断名が出せるという簡単仕様だが、判定に疑問の残るものも多い)が最も権威のある定義となりました。

 そこでは、発達障害は


1.知的障害

2.コミュニケーション障害(言語障害・吃音など)

3.自閉症スペクトラム障害

4.注意欠陥多動性障害

5.限局性学習障害

6.運動障害群(発達性協調運動障害、チックなど)

7.他の神経発達障害群


を指すことになっています。


 …現在日本の定義では

「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発言するもの」とされており、大きな齟齬は見られない状況ですが、DSM-5の方がより広範囲をカバーしていると言えるでしょう。


 特に日本では知的障害は発達障害と別枠で捉える傾向があり、そこからは自閉症をはじめとするその他の発達障害への対応が遅れてきていた歴史が現れているようにも感じます。


 さて、このように発達障害の定義は時代によって少しずつ精査されていっている最中なのですが、中でも近年大きく変わったのは「発達障害」についての人々の捉え方です。


 かつて発達障害は


「特殊な人々で、一生治らない。診断名がついたら同じ対応、治療法を施していくべき」


と認識されていました。ところが今では


「少なくとも数%は存在し、症状自体も程度の違いがあるだけで誰にでも見られる。ゆえに適切な支援で改善し、社会参加可能。症状の現れ方や治療反応等は個人差が大きく、個別の支援が求められる」

と全く正反対の様相を呈しています。


 重要なのは「適切な支援で改善」するという点、そして「個人差が大きく個別の支援が求められる」という点です。

 つまりあの困った生徒も、生き辛い自分自身も、適切な支援があれば改善していくという希望です。

 最終的に人を動かすのは脅しでも絶望でもなく、希望なのだと思います。教育に携わる人間であれば、もしくは対人援助に関わる人間であればその希望を大切にしていきたいところですね。


 

②発達障害の原因について


 さて、続いて発達障害の原因について考えていきましょう。


まず、遺伝子由来であること。

次に環境(主に妊娠中)も要因となること。

上記2つの要因が組み合わさっていること。

最後にワクチンや子育てのあり方が原因というわけではないということ。


…以上は医学的にわかっているそうです。


それに対しわかっていないことも当然ありまして。


例えばどの遺伝子がどのような症状に関連するのか。これはまだ不明です。

次に親からの遺伝がどの程度かも不明。ついでに遺伝子由来ではあるものの親から遺伝しないで突然変異的に発症する確率も不明。最後に環境要因が関係するはずなのだが、それが何なのかはまだわからないことが圧倒的。


ただ、超低出生体重児(1000g以下)と極低出生体重児(1500g以下)については発達障害の発生率は大体3~5倍(15~25%)の数字となっており、これを知っているだけでも後の対処が早くとることができます。

 特に小学校の先生等は、出生時の体重については比較的聞きやすいかと思うので発達障害か否かを考える際の参考の1つとして覚えておくといいかもしれません。


 いずれにしても発達障害の基本は生まれながら(あるいは低年齢から)発症するものであり、大人になってからいきなり発達障害様の症状が現れた場合は診断名がくだらないわけです。

 ところが実際は幼少期から症状はあったのに気付かれておらず、鬱などの二次障害をきっかけに元々もっていた発達障害の症状が表に出てくるといった方達もいるわけでして。

 こうした方々がいわゆる「発達障害グレーゾーン」とされ、なかなか苦しい状況に追いやられているのが現代日本の状況です。


 

2.代表的な発達障害について


①日本の定義ではメインの症状は実質3つ

 

 日本の定義では「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能の障害であって…」とされています。ですが、実はこれ整理すると3種に絞られてしまいます。

 まず自閉症とアスペルガー症候群(自閉症の症状を持ちながらも知的発達に遅れがない人々)については現在は「自閉症スペクトラム」という1つの障害として捉えらています。つまり、区別しなくなってきたのですね。そして、広汎性発達障害というのは「この人発達障害っぽいけど自閉症とまではいかないんだよなあ」等判断に困ったときに使う便利ボックスと化しているので、広汎性発達障害という独自ブランドが現在存在するわけではありません。

 当然、その他の脳機能障害については無視してはいけないのですが、基本的には発達障害は①自閉症スペクトラム(ASD)②注意欠陥多動性障害(ADHD)③学習障害(LD)

の3つを抑えれば大体は見えてくるということです。


※発達性協調運動障害等併発しやすい障害は他にもありますのであくまでメインは…という話です。


 

②各発達障害についての解説

 

 あ 自閉症スペクトラム

自閉症を中核とし、その連続体(スペクトラム)にあたる症状の方をこう呼びます。

DSM-5での主な診断基準は以下のABCDを満たしていること。



DSM-5の診断基準(以下のABCDを満たす必要あり)

A:社会的コミュニケーションおよび相互関係における持続的障害 (以下の3点を満たすこと)  a 社会的・情緒的な相互関係の障害 (例:一方的にしゃべる)  b 非言語的コミュニケーションの障害 (例:視線が合わない、ジェスチャーが伝わらない)  c 年齢相応の対人関係性の発達や維持の障害 (例:気になる異性をずっと追いかけてしまう等) B:限定された反復する様式の行動、興味、活動 (以下の2点以上の特徴)  a 常同的で反復的な運動動作や物体の使用、あるいは話し方   (例:手をひらひらさせる、お気に入りの物に固執、同じ言葉をくり返す等)  b 同一性へのこだわり、日常動作への融通の効かない執着、言語・非言語上の儀式的な行動パターン   (生活上にいくつものルーティンがあり、それが崩れると混乱する)  c 集中度・焦点づけが異常に強くて限定的であり、固定された興味がある   (例:電車や兵器など特定の分野に異常なほどのめり込む)  d 感覚入力に対する敏感性あるいは鈍感性、あるいは感覚に関する環境に対する普通以上の関心   (例:大きな音が苦手だったり、人になでられた時や雨が肌にあたっても痛いと感じるといった敏感さを示したと思えば、骨折や切り傷などでも痛みを感じなかったりすることがあります。敏感も鈍麻もある意味では同じものの裏表です。ある感覚に集中するためにそこは敏感に、それ以外の面は鈍感になる。敏感な結果眩しさや騒音が理由でそこにいられないこともあります) C:症状は発達早期の段階で必ず出現するが、後に明らかになるものもある (つまり幼少期に気付かれないこともある) D:症状は社会や職業その他の重要な機能に重大な障害を引き起こしている。  (本人や周りが困る状況になっているということです。)

 診断基準はわかったが、スペクトラムという概念が何だかよくわからんのですという方もいると思うのでそちらも補足しておきます。

 以前は自閉症(コミュニケーションをとることも難しい)、アスペルガー障害(知能は正常)、そしてその間の人々(なんだか知的にも遅れがありそうだしコミュニケーションも苦手)はそれぞれ別のステータス異常として捉えられていたのです。

 ところが、研究が進んだ結果、「これって同じ症状の度合いが違うだけなんじゃないの?」ということが発覚し別枠だった3つが1つの症状の度合いの差(つまり連続体)にまとまってしまった。

 

 この画期的な変化がおきたのが2013年。それ以降自閉症もアスペルガー障害も、全て診断名としては自閉症スペクトラムとして示されるようになりました。


 ※かつては知的障害を伴う自閉症(自閉症の8割は知的障害を伴う)のみをカウントしていたため日本での有病率は低く見られていたのですが、この視点の変化に伴い、100人に1人は該当する身近な障害へと変化しています。


 なお、この自閉症度合は重傷者から健常者まで途切れることなく続いており、実は最も辛いのは健常者と自閉症スペクトラムのぎりぎりの境目…境界領域や域下ASDと呼ばれる方達だとも言われています。

 

 彼らは症状が弱かったがゆえに幼少期はその特性に気付かないものの、社会に出て高度なコミュニケーションが必要な環境に立たされることで始めて症状に困るようになります。

 結果、早期からトレーニングを重ねたり自身に適した環境で生きることを覚えてきた症状の強い方達よりも「抑うつや不安など様々なメンタルリスクが高く、生活で困難を抱えやすい」状況になってしまうのです。


 学校現場でASDを考える時には、見逃されやすいこの境界領域にいる可能性を視野にいれられるかどうかでも生徒理解および自身の理解が変わるかと思われますので是非覚えておいて欲しい部分です。無論、自分自身がそうした領域にいるという可能性も含め。


 


 

い 注意欠陥多動性障害(ADHD)

 比較的理解が進んできているがゆえに誤解されがちな発達障害NO1。

 基本症状は①不注意②多動性&衝動性の2つで、一般的に女児は不注意型が、男児は多動性&衝動性型が多いとされていますが、8割は両タイプの混在です。

 大体子どもの3~5%に存在すると考えられており、男女比は5:1で男児が多い。


 年齢を重ねるごとに行動の多動は収まっていくことが多いのですが、実は脳内はフルスロットルで動いており、結果「集中できない」「計画的にできない」「人の話がきけない」「先延ばしにする」「忘れっぽい」「飽きっぽい」「何事にもはまりやすい」「思いついたら実行する」という特徴は大人になっても継続します。最近の研究で脳に異常が見つかったために、脳の機能異常が背景であることが定説化しました。


 なお、DSM-5での診断基準は以下となります。



A1:

以下の不注意症状が6つ(17歳以上では5つ)異常あり、6か月以上にわたって持続している


a 細やかな注意ができず、ケアレスミスをしやすい。 (テストや役所での手続きなどで顕著。枠を書き間違えたり、名前を忘れたり、印を押し間違えたり)

b 注意を持続することが困難 (最後まで物事をやりとげず飽きっぽく見えたりします。何かをやっていても別の刺激をきっかけに意識をもってかれたりもします)

c 上の空や注意散漫で、話をきちんと聞けないように見える (集中が続かず、空想上の世界に行ってしまったりします)


d 指示に従えず、宿題などの課題が果たせない (忘れっぽい、集中が続かない、先延ばし癖などから課題提出は苦手か〆切ギリギリになりがちです)

e 課題や活動を整理することができない (頭の中の作業スペースが常人より小さいとされており、結果すぐに作業スペースは一杯。何から手をつければいいかがわからなくなってしまいます。)

f 精神的努力の持続が必要な課題を嫌う (だって集中が切れるんですもん)

g 課題や活動に必要なものを忘れがちである。 (頭の中の作業スペースが一杯になりやすいので、情報を覚える前に押し出されてしまいがちです。結果、忘れ物が目立つことに。)

h 外部からの刺激で注意散漫となりやすい (集中力が切れやすいので、別刺激があるとそちらに集中してしまいます。)

i 日々の活動を忘れがちである (こちらも頭の中の作業スペースの問題。長期記憶にする前に情報が押し出されてしまいます)

A2:

以下の多動性・衝動性の症状が6つ(17歳以上では5つ)以上あり、6か月以上にわたって持続している。

a 着席中に手足をもじもじしたり、そわそわした動きをする。 b 着席が期待されている場面で離席する c 不適切な状況で走り回ったりよじ登ったりする d 静かに遊んだり余暇を過ごすことができない e 衝動に駆られて突き動かされるような感じがして、じっとしてることができない。 f しゃべりすぎる g 質問が終わる前にうっかり答え始める h 順番待ちが苦手である i 他の人の邪魔をしたり、割り込んだりする


B:

不注意、多動性(衝動性)の症状のいくつかは12歳までに存在していた

C:

不注意、多動性(衝動性)の症状のいくつかは2つ以上の環境(家庭・学校・職場・社交場面など)で存在している。 (家庭内ではいい子で学校では多動という場合は別の問題の表れかもしれないということ。)

D:

症状が社会・学業・職業機能を損ねている明らかな証拠がある。  (個性の範疇を越えており、本人の被害的な主観の問題でもない)

E:

統合失調症や他の精神障害の経過で生じたのではなく、それらで説明することもできない (統合失調症の陽性症状や双極性障害(躁鬱病)の躁状態などと区別できる) 


 さて、教育に携わっている方であれば上記のような症状をADHDが持っていることはなんとなくご存知だったかと思います。

 彼らの症状の多くは先述したように「不注意」と「多動性・衝動性」ですが、それらを生む根本として無視できないのが「ワーキングメモリ(短期記憶)の弱さ」です。


 ワーキングメモリとは頭の中の作業台のようなもの。これが人より狭いために一度そこに置かれた物も次に入ってきた物にすぐ押し出されてしまう。結果、長期記憶に残りにくい。

「宿題やろう」と思っていたにもかかわらず、ふと視界に入ったテントウムシに注意がいってしまう。その間に「宿題をやる」という短期記憶が吹き飛び、テントウムシとじゃれあってしまう…。


 例えばこんなことも起きます。大事な話をされているのがわかり、一生懸命会話を成立させるためにメモリを使うのです。おかげで会話はスムーズに進み、それなりに意義のある会話が出来たと満足する。ところが、後になって思い返すと会話の内容が断片的にしか思い出せない。

 これはメモリを「自然な会話を継続すること」、「そのための表情、適切な返答のタイミング」、そうした様々なものにとられてしまうがために『会話内容』が机の上を素通りしてしまっているために起きる現象です。

 結果、悪気はないのに話の内容と違うことをしてしまい、嘘つきになってしまうこともしばしば。ADHDにとってこの脳内の机の狭さをどのようにカバーしていくかは避けられない課題と言えます。


 

 さて、通常の説明であればこのへんで終わりにしてもいいのですが、皆さんにはADHDを考えるときにもう1つ是非抑えておいてほしい概念があります。それが「ADHDの年齢別の特徴」です。



 例えば幼児期のADHDは、一言でいえば癇癪もちで激しい感じの子という特徴です。

 それらは

 

 ①睡眠障害(過度の眠気・無反応あるいは落ち着きのなさによる不眠)

 ②食事問題(好き嫌いの激しさ、ミルクの飲みが悪い、食事がとれない程泣いてしまう)

 

 の2点から特に見て取ることができます。

 ADHDは幼児期には正式な診断はできません。しかし、ADHD児の親の3分の1は幼児期から何等かの問題があったことを覚えているとのことです。

 

 上記の特徴は昔で言えば「しゃくの虫」がついている子どもということで、正直育児に関しては非常に骨が折れる。そしてそのために幼少期の親との結びつきがうまく形成されず、「愛着障害」となってしまうことも多いと言われていることも抑えておきましょう。



 続いて、児童期(小学生間)です。

 社会性を求められる場面が増えるため、問題がここで顕在化して受診に至るケースも多いです。ただし、全体的にはこの年齢ではまだ本来の明るさを持ち合わせていることも多く、「落ち着きのないお調子者」という印象をうけることでしょう

 学校生活の中では、


・気がちりやすい

・与えられたものと関係ないことをしてしまう

・衝動的

・攻撃的な行動をする

・おちゃらけてしまう

・友達とうまくやっていけない


 といったあたりがメインの問題として挙がってきます。


 しかし、この時期水面下ではもっと困った問題が進行している可能性があるのです。

 例えばおちゃらけてしまうのは何故かと言えば、自身の努力で解決できない問題に対する彼らなりの防御法であったりします。

 事実、この時期のADHDの子ども達は学業や対人関係の問題がうまくいかないがために抑うつ状態になってしまったり、自己肯定感が低くなってしまったりという問題が起きることがあり、これらが後の二次障害に繋がっていってしまうことがあるのです。


 

 さて、それでは最後に思春期のADHDはどうでしょう。この頃になってくると彼らの姿は良くも悪くも変わってきます。


・表面的な多動・衝動性がへります。しかし頭の中は相変わらず多動ですし衝動性も高いままです。

・学業や課題への取組や成績には一貫性がないことがあります。

 ※ある先生の数学は高得点だったのに先生が変わった瞬間赤点になったりする

・非行や家庭内での問題がおきてくるのもこのころです。

・怒りや情緒的な不安定さから対人関係で問題を抱えることもあります。

・特に権威者との間での衝突などが恒常化してしまうタイプも。

・衝動的な発言等から友人関係の問題も顕在化します。

・結果、低い自己評価に苦しんだり、抑うつ、無気力といった状態に陥ることも多いです。


 いかがでしょう。本来ADHDは明るく人になつきやすい性格の方が多いです。ところが、この頃になるとその明るさや行動性がなりをひそめ、反面他者との関係に思い悩んだり反抗的になったりと負の側面が強く表に現れるようになってきます。いわゆる二次障害が始まってくるのです。

 

 常に注意をされ続け自己肯定感を失い無気力になる子もいれば、注意をしてくる対象に対して敵意を燃やし、全身全霊をもって噛みついていく(反抗挑戦性障害)ようになる子もいます。注意力のなさは学力低下にも結び付くことがあり、学校が楽しくなくなっていった結果夜の町に飛び出していく子も出てきます。彼らの持ち味である明るさをどれだけ残しながら二次障害化をとどめることができるか、それが重要なのがこの中学・高校の頃と言えるでしょう。


 

う 学習障害(LD)

 

 さて、先に説明した2種と比べると見えづらく、発見しにくいのがこのLDです。ある報告では大体5~6%の子どもに見られるというデータもあり、決して少ない数字ではありません。

 

 彼らは全般的な知能に遅れはありません。ですが、ことばの読み書きや計算、図形理解などが極端に苦手なのです。様々な症状がありますが、中核をなしているのは読み書きにつまずいてしまう「ディスレクシア(読字障害)」という障害です。

 

 会話には支障はないのですが、文字を読もうとするとたどたどしくしか読めず、書く際も似ている字と間違えたり鏡文字になってしまったりします。大体のケースで、読みがうまくできない場合は書きも苦手であるのが特徴です。読めるが書けないというケースや書けるが読めないというケースはほぼないとされています。


 読み書き障害と呼ばれることもあるこのディスレクシアが、LDの約8割です。また計算問題を解くのが苦手、計算方法がなかなか覚えられないといった「算数障害」もありますが、こちらは単独で現れる傾向があるとされています。


 LDに関しては本人は一生懸命にやっているにも関わらず結果に表れてこないのが辛い点です。知的な遅れがなく日常生活では問題がないことも多いため、なまけと誤解されやすい点も大きな問題と言えるでしょう。

 

 一応、症状について正式な分類を以下にのせておきますが大事なのは呼び名ではなく何に困っているかであるのは言わずもがなです。


 

LDの諸症状

読字障害 

 ⇒ 読みの問題 音韻的読字障害

 ⇒ 音の分析および記憶の問題

  (=話された言葉が理解できない) 正字法的読字障害

 ⇒ 単語の形、構造の視覚的認知の問題 書字障害 

 ⇒ 綴り、文字による表現、または文字の手書きの問題 計算障害 

 ⇒ 数学能力の問題および問題解決の困難

  (=計算方法がなかなか覚えられない) 幾何学障害 

 ⇒ 数学的推論の障害による問題

  (=算数の文章題、証明問題ができない) 失算症 

 ⇒ 基本的概念形成における障害および計算技能の獲得不能

  (=暗算も筆算もできない) 名義失語 

 ⇒ 必要に応じた単語および情報の記憶からの想起困難


 

 続いてDSM-5の診断基準も以下に記します。


DSM-5によるLDの診断基準

A:

学習や学業的技能の使用に困難があり、この困難を対象とした介入が提供されているにも関わらず、以下の症状の少なくとも1つが存在し、少なくとも6か月間継続していることで明らかになる。 (1)不的確または速度が遅く、努力を要する読字 (例:単語を間違ってまたゆっくりとためらいがちに音読する、言葉をあてずっぽうに言う、言葉を発音することの困難さをもつ) (2)読んでいるものの意味を理解することの困難さ (例:文章を正確に読む場合があるが、読んでいるもののつながり、関係、意味するもの、またはより深い意味を理解していないかもしれない。) (3)綴字の困難さ (例:母音や子音を付け加えたり、入れ忘れたり、置き換えたりするかもしれない) (4)書字表出の困難さ (例:文章の中で複数の文法または句読点の間違いをする、段落のまとめ方が下手、思考の書字表出に明確さがない) (5)数字の概念、数値、または計算を習得することの困難さ (例:数字、その大小、および関係の理解に乏しい、一桁の足し算を行うのに指を折って数える、算術計算の途中で迷ってしまい方法を変更するかもしれない) (6)数学的推論の困難さ (例:定量的問題を解くために数学的概念、数学的事実、または数学的方法を適用することが非常に困難) B:

欠陥のある学業的技能は、その人の暦年齢に期待されるよりも、著明にかつ定量的に低く、学業または職業遂行能力、または日常生活活動に意味のある障害を引き起こしており、個別施行の標準化された到達尺度および総合的な臨床評価で確認されている。17歳以上の者においては、確認された学習困難の経歴は標準化された評価の代わりにしてよいかもしれない。 C:学習困難は学齢期に始まるが、欠陥のある学業的技能に対する欲求が、その人の限られた能力を超えるまでは完全には明かにはならないかもしれない。 (例:時間制限のある試験、厳しい締め切り期間内に長く複雑な報告書を読んだり書いたりすること、過度に重い学業的負荷) D:学習困難は知的能力障害群、非矯正視力または聴力、他の精神または精神疾患、心理社会的逆境、学業的指導に用いる言語の習熟度不足、または不適切な教育的指導によってはうまく説明されない。 ※DSM-5の方では読み・書き・算数の3つが重視されており、聞くことや推論すること等は定義に含まれていない面がありますが、実際の困りごとではDSMよりも広範囲に及ぶことがあることは注意です。



 

3.発達障害を理解することの難しさ


 ここまで代表的な3つの発達障害について概説してきました。

 …全ての発達障害に共通することですが、実際の障害は概説よりも多様な様相を呈します。というのも、上記の3種が入り混じっていることが多いからです。

 イメージとしては以下のような状況です。一つ一つの障害でさえ多岐に渡るのですが、下図のどこに位置するかによって今度はブレンドがおきるのです。



なので、発達障害は実は簡単に理解するのは難しい概念なのです。

ところがなまじっかADHDはジャイアンかのび太、ASDは目線合わせない…などのテンプレートが広まったこともあり、「発達障害ってあれでしょ?」とわかった気になっている人が多いのが現状で、結果本当に困っている子ども達が見逃されてしまう面もあったりします。


 上記したように、発達障害はまず主軸となる障害でさえ多種障害のブレンドになりやすい。そして、さらに複雑になるのはこの主軸となる障害の上に、さらに別の障害が上乗せされるケースが実際は多いということ。いわゆる二次障害ですね。

 こうして発達障害の方は下手をすると4~5つの障害のキメラとなってしまうことがあるわけです。というわけで、次回は二次障害についての概説をしていこうと思います。


こうご期待。



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